SHORT ESSAYS

An Essay for Salon, 2024

「英文学の楽しみ―21世紀流」

 

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「英文学の楽しみ―21世紀流―」

始めに―自己紹介を兼ねて

英文学の作家と作品案内:

(1.) Shakespeare, Wordsworth, Brontë Sisters, George Eliot, etc.
(2.) Lewis Carroll & Mother Goose Nursery Rhymes
(3.) James Joyce and Ulysses
(4.) Kazuo Ishiguro; Klara and the Sun

21世紀に読む英文学のたのしみ

北田敬子

これは、2024年3月16日に「キヨ友の会」『サロン』での講演原稿です。
約50分間の口頭発表のために用意した原稿であり、別途参考(引用)資料
があります。前半部分の引用は原稿に組み込んでありますが、後半の散文
作品については原文に翻訳を添えた資料になっています。適宜ご参照下さい。

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Wordsworth

文学作品は大きくverse(韻文)とprose(散文)に分けられます。Shakespeareの戯曲もblank verseという韻文で書かれています。詩歌というものはことばの音楽性を尊びながら、短い表現の中に無限の可能性を容れる余韻で出来ている文学形式だと言えるかもしれません。若い頃もっと読んでおけばよかったと今さらながらに思います。(詩を読むことも21世紀の文学の楽しみのリストに加えておきましょう!)

Shakespeareもさることながら、今も私たちが近しく感じるのはロマン派の詩人たちかもしれません。Byron (1788-1824), Shelley (1792-1822), Keats、(1795-1821), そしてとりわけ自然を畏敬の念を持って歌ったWilliam Wordsworth(1770-1850) の作品を私は折に触れ思い出します。

この季節になると私は彼の黄水仙を描いた詩を口ずさまずにいられません。

I wandered lonely as a Cloud
   That floats on high o’er Vales and Hills,
When all at once I saw a crowd,
   A host of golden Daffodils;
Beside the Lake, beneath the trees,
Fluttering and dancing in the breeze.

Continuous as the stars that shine
   And twinkle on the Milky Way,
They stretched in never-ending line
   Along the margin of a bay:
Ten thousand saw I at a glance,
Tossing their heads in sprightly dance.

The waves beside them danced, but they
   Out-did the sparkling waves in glee:—
A Poet could not but be gay
   In such a jocund company:
I gazed—and gazed—but little thought
What wealth the shew to me had brought:

For oft when on my couch I lie
   In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
   Which is the bliss of solitude,
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the Daffodils.

私は一人でさ迷い歩いていた 雲のように
谷や丘の上高くを流れる一片の雲のように
その時突然私が目にしたのは
一群れの、いや大群の黄水仙だった。
湖の脇、木々の下で
微風の中でざわめき踊っている黄水仙

切れ目なく天の川で
光り輝く星々のように
果てし無く線状に延びていた
入り江の隙間に沿って
一目で一万本も見たろうか
黄水仙が頭を振ってはじけるように踊るのを

入り江の小波も踊っていた、だが黄水仙は
悦びに煌めいて踊る波に勝っていた
詩人たるもの快活にならずにいられない
こんな陽気な仲間がいては
私はじっとじっと見つめたが思いもよらなかった
この光景がどんな富を私にもたらしたか

なぜならしばしば私が寝椅子に横たわって
空しくまた物思いに沈む時、
花たちは突然鮮やかに蘇る 私の心の眼に
それは孤独でいることの至福
すると私の心は悦びで満たされ
水仙たちと共に踊る

From Poems, 1807, by William Wordsworth

この詩の中で詩人は” the bliss of solitude”( 孤独でいることの至福)と書いています。その意味を若い頃には理解できませんでした。歳を重ねるごとに深く味わえるようになってきたように思います。仮に近い将来自分がモビリティー(行動の自由)を失ったとしても、幾度でも蘇る至福の情景を胸の内に蓄えておけるなら、生きる喜びは消えないのではないかと、この詩を読んで想像しています。

Victorian Novels

18-19世紀は英文学において詩歌のみならず散文が隆盛を極めた時期でもあります。様々な小説が書かれ、読まれました。Jane Austen (1775-1817)や Charles Dickens(1812-1870) が登場し、ヴィクトリア女王の時代(1837-1901)には特にBronte 姉妹(Charlott: Jane Eyre; Emily: Wuthering Heights; Anne: Agnes Grey)それぞれが長く読み継がれる作品を残しました。彼女たちの作品は牧師の娘として生まれ育った限られた地方・社会・風土の中で、能うる限り奔放な想像力を駆使して、登場人物たちが与えられた環境の枠組みを超えて行こうとするものばかり。21世紀の現在読んでも十分に読者の共感を呼ぶ物語性に溢れています。

当時の女性作家たちの作品はPride and Prejudice『高慢と偏見』(1813)で名高いJane Austenを筆頭に(広義の)中産階級の女性たちがどのように結婚相手を見つけるかという筋書きが多く、それは所謂「風俗小説」(novel of manners)の宿命だったと言えそうです。相続権の無い女性たちにとって結婚は生き延びていくための手段であり「仕事」ですらあった面が否めず、romantic loveのゴールとばかりは言えません。その点、Bronte Sistersの少し後に登場したGeorge Eliot (1819-80)は登場人物個人の振る舞いや運命のみならず、人物たちの群像ないしは彼らの所属する地域社会全体を長編小説に描いたという点で、よりパワフルな散文作品を創造したと言えそうです。注目すべきは、結婚が幸福の約束としてではなく苦難の出発点として描かれ、多彩な登場人物たちの微妙な心理や行為の動機などが子細に観察・分析されている点です。読み手は誰が誰と結ばれるのか、遺産は誰の手に入るのかとハラハラドキドキさせられます。小説が人々のエンタテイメントになったことが理解できます。他人の人生を覗いてみたいという読者の好奇心をそそる仕掛け、書き手の側には人間と社会を研究対象にした何でも盛り込める「器」としての小説という文学の様式が作り上げられていったのがVictorian Eraといえそうです。

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