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An Essay for Salon, 2024

「英文学の楽しみ―21世紀流」

 

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Essays since 2018

「英文学の楽しみ―21世紀流―」

始めに―自己紹介を兼ねて

英文学の作家と作品案内:

(1.) Shakespeare, Wordsworth, Brontë Sisters, George Eliot, etc.
(2.) Lewis Carroll & Mother Goose Nursery Rhymes
(3.) James Joyce and Ulysses
(4.) Kazuo Ishiguro; Klara and the Sun

21世紀に読む英文学のたのしみ

北田敬子

これは、2024年3月16日に「キヨ友の会」『サロン』での講演原稿です。
約50分間の口頭発表のために用意した原稿であり、別途参考(引用)資料
があります。前半部分の引用は原稿に組み込んでありますが、後半の散文
作品については原文に翻訳を添えた資料になっています。適宜ご参照下さい。

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始めに―自己紹介を兼ねて

私は1952年東京の墨田区に生まれました。TOKYO Sky Treeのある押上というと、最近ではどなたもご存知です。けれども私の生まれた当時は隅田川の東岸、向島というエリアは町工場や小さな木造住宅ビッシリと路地にひしめく下町でした。新潟県の長岡から出て来た祖父母が落ち着いた一角は幸いなことに関東大震災でも東京大空襲でも焼け残り、父は学徒出陣で南方や中国大陸に送られたもののかろうじて生還し、その地で残りの大学生活を送りました。父から聞いた昔のバンカラ学生達の話です。

 「ところでシェイクスピアを読んだことあるかい?」
「まあね、『ハムレット』だろ?それよか『ロミオとジュリエット』がいいねぇ。」
「そうか、残念だなぁ。僕は『ロミオ』は読んだが『ジュリエット』はまだだ。」

まあ、このような父の子です。父は銀行に勤め、転勤族となって向島を出ました。母は自分も銀行員の娘で姑と子供三人を抱えて転勤について歩きました。戦争中に女学生だった母は、音楽が好きで外国語も勉強してみたかったようです。北九州市に住んでいた中学一年生の時、母に連れられて隣町小倉の映画館に観に行ったミュージカルThe Sound of Musicは私にとって最初の大きなカルチャーショックでした。Julie Andrews演じるマリアがトラップファミリーの子供たちに音楽の手ほどきをする場面で「ドレミの歌」を歌います。音と言葉を当てはめてメロディーに乗せるというのは、外国語の指導方法としても実に巧みな手法だったと思います。

そこでもう一つ注目したいのはJulie Andrewsがイギリス生まれの俳優だったという点です。映画にすっかり夢中になった私は母にせがんでsoundtrackのレコードを買ってもらいました。それを繰り返し聴きながら歌を覚えたのですが、私の記憶に刻まれたのはJulieのイギリス英語の発音でした。音と共に歌う彼女の表情が蘇ります。口の開け方、音の出し方、舌や唇の動きなど。彼女から学んだことは数知れません。ビデオの無い時代に、中学・高校を通じて最低6回は映画館に通いました。

英文学の作家と作品案内:

(1.) Shakespeare

英語の歴史をたどると、大きく三つの時代区分があります。
・ゲルマン語から派生したOld English(古英語)
・Norman Conquest(1066年)によってフランス語が流入して以降のMiddle English(中英語)
・16-17世紀Shakespeare(1564-1616)の時代に端を発するModern English(現代英語)

17世紀から今日21世紀までを一区切りにするとは意外かもしれませんが、Shakespeareの英語は現代の英語話者にとってさほど古めかしく理解しがたいものではないようです。現に来日公演を行うRoyal Shakespeare Company(などのイギリスの劇団)が上演する舞台は原文に忠実です。学生時代にPeter Brook演出のMidsummer Night’s Dream(『夏の夜の夢』1973年東京公演)の斬新な舞台を見た時には現代的な舞台装置と原文そのままの言葉の取り合わせに心底驚きました。

私は2019年8月にデンマークを旅行した時、コペンハーゲンから汽車で一時間足らずのHelsingørにKronborg城を訪ねました。Hamletの舞台となった場所です。ここではHamet Liveという催しが行われ、城内の回廊や大広間を使ってTHE TRAGEDY OF HAMLET, PRINCE OF DENMARKのいくつかの場面が上演されていました。名場面を見逃すまいと見物人が寄ってきます。

Ham. To be, or not to be, that is the Question:
Whether 'tis Nobler in the minde to suffer
The Slings and Arrowes of outragious Fortune,
Or to take Armes against a Sea of troubles,
And by opposing end them: to dye, to sleepe
No more;

ハムレット このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。
どちらが立派な生き方か、このまま心のうちに
暴虐な運命の矢弾をじっと耐え忍ぶことか、
それとも寄せ来る怒涛の苦痛に敢然と立ちむかい、
闘ってそれに終止符を打つことか。死ぬ、眠る、
それだけだ。                               
(小田島雄志訳)
Act III: Scene 1 

フロアの中央に国王夫妻―ClaudiusとGertrud―の玉座が並べられ、Laertesが登場するとHamletとの剣の試合が始まります。それを見物人が囲みます。迫真の演技はもちろん英語です。大人も子供も集まった多国籍の観客が固唾を飲んで見守っています。ClaudiusもGertrudもLaertesも死んでHamletがHoratioに後を託して果てるときにHamletが呟くのは

Hamlet ―…The rest is silence.” 
ハムレット 「後は沈黙。」                                                    Act V: Scene 2

あれほど言葉に固執したHamletがと、胸蓋がれる場面です。、第二幕でHamletが本を読んでいるところへOpheliaの父Poloniusが近寄り、「何を読んでおられます?」と問いかけた時の人を食った台詞が思い出されます。

Pol. What do you read my Lord?
Ham. Words, words, words
Pol. What is the matter, my Lord?
Ham. Betweene who?
Pol. I meane the matter you meane, my Lord                    Act II: Scene 2

ポローニアス 「ハムレット様、何をお読みで?
ハムレット 「ことば、ことば、ことば。
ポローニアス 「いえ、その内容で。」
ハムレット 「ないよう?おれにはあるように思えるが。」
ポローニアス 「つまりその、お読みになっている事柄のことですが。」 (小田島訳)

多弁の後の沈黙。Hamletは毒殺・不倫・発狂(とそのふり)そして復讐と、凄惨な物語ですが、最初から最後まで深刻な場面続きかと言うとそうでもなく、随所に見られる言葉遊びを始めとして、卑猥な冗談も多く、極めて人間臭いお芝居です。現代社会のそこここでみられる事件が盛り沢山と言えましょう。わが国の死に急ぐ若者たちが、Hamletは知らなくても、To be or not to be; that is the question.”を呟いているのではないかと案じられてなりません。やはり、Shakespeareはわれらの同時代人です。

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