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徒歩記 2 

本郷の四季」

--Hongo Wonderland--

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2.

都市と自然はおよそ共存に不向きな両極と思われるかも知れない。都市の中に原生林を求めるのは無理だが、 都会の中でこそ人は遠い自然に憧れ、居ながらにして山水に触れたいと願い続けてきた。その執念の結実が 庭園である。

東京ドームの丸みに沿って歩いていくと、長い築地塀に囲まれた茂みが迫り出してくる。24番ゲートのあたり では手を伸ばせば触れられるほど近くなる。身軽な若者がその気になったら、21世紀と17世紀の境界をヒョイ と飛び超すのも難しくはなさそうだ。ゲート脇の階段を下り、そのまま外堀通りに出てしばらく歩き、日中友 好会館のある通りを右に曲がると「小石川後楽園」入り口に到着する。そこは花見や紅葉狩りの季節を除いて 人影もまばらな静寂の空間。「こんなところに!」と誰しも意外の念に打たれるに違いない。

この庭は何度訪ねても造園の巧みさに驚嘆させられる。「江戸時代初期、寛永6年(1629)、 水戸徳川家の祖である頼房が、その中屋敷として造ったもので二代藩主光圀(水戸黄門)の代に完成」と案内書 にある。庭園には明から来た儒学者朱舜水の指南によるという中国杭州西湖の堤を模した堤防が伸び、円月橋が 架かり、園庭を巡回する歩道は中国式の石畳で固められており、江戸人の異国趣味が垣間見える。また、大堰川 に渡月橋、音羽の滝に通天橋、白糸の滝もあれば木曽川に竜田川と、日本の名勝を寄せ集めた趣向には思わず頬 が緩む。芸術は自然を模倣する!と。大泉水を中心に全長1400mの小径をゆっくりめぐれば一時間は優にかかる。 その間、山あり谷あり、得仁堂、八掛堂跡、西行堂跡など建造物やその遺跡あり、稲田に花菖蒲田そして梅林と、 季節毎に人々が愛でる植栽がふんだんに配されている。山道を登り下り、深山幽谷を模した水の流れをのぞき込み、 樹齢数百年という銘木揃いの木立の間を歩くうち、この庭を造ろうとした徳川家の人々の熱意に抱き込まれるよう な気がしてくる。彼らは高層建築を借景とし、野球場に隣接する日が来ようとは夢にも思わなかっただろうし、 どれほど遠い未来の人々に風雅の贅沢を与えるかも知らず、あるいは権勢を誇示するためにこの庭を造ったのかも しれない。だが、制作者の意図を超えて庭園は生き延びた。内庭のこじんまりした泉水めぐりも大庭園に劣らぬ 風情を湛え、これだけの空間によくぞと目を見張るほどの変化が凝縮されている。

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