手紙 「Akikoさんへ」/ a letter to Akiko

Akikoさん

今年も既に師走です。
落ち葉が散り敷く道を
風に追われて歩む季節となりました。

何という一年だったでしょう。
年の初めのあなたの電話は
「少し具合が悪かったけれど、大丈夫」でした。
むしろ、前から不調を抱えていた私に
「天から与えられた休暇だと思ってのんびり休んでいらっしゃい」という
あなたの落ち着いた声を聞くだけで、安心した私です。
ところが私より先に、あなたは三月に手術を受け
四月には病院から病院宛てに便りを出しましたね。
文字通り「同病相憐れむ」となりました。
けれど、八月に「会いに行きたい」と言った私に
「暑いから、来なくていいわ」とあなたは答えました。
そうして「そのうちまた」が「もう二度と」になりました。

いろいろな経験を分かち合い、語り合いながら
四半世紀をはるかに越える時が過ぎました。
病が私たちの共有する最後の経験になろうとは、
夢にも思わないことでした。
「これからはこの病気と一緒に生きていくしかないわ。
まあ、あとどのくらい命があるのか知らないけれど。」
そうあなたがからりと言った時
こころのなかをからだのなかをどんな嵐が吹いていたのでしょう。

大学院生時代に知り合ったあなたは
イギリス浪漫派の詩を研究し、
何度もイギリスを訪ねました。
結婚して、子どもを育てながら、仕事を続け、
しかも詩に対する関心がひとときも衰えない様子を
頼もしく、私は見つめていました。
激務の間を縫って復学し
博士号を取ったAkikoさん。
どんな機会も無駄にせず
怠惰に流れることのないあなたを
私は尊敬しています。

振り向けばいろいろな瞬間がくっきりと蘇ります。

春まだ浅い季節にあなたの故郷
山形県寒河江市を訪れると
暖かいご家族があなたを待っていました。
お父様、お母様、妹さんたち。
近所の神社の境内であなたは残雪をかき分け
「ホラ、ふきのとう。春はこんな風に始まるの」と
都会育ちの私に教えてくれました。

一ヶ月交代で互いの家を訪問しあい
細々と続けた読書会。
「なかなか一人では読めない英語の原書を一緒に読みましょう」と
あなたが誘ってくださって。
テキストを精読する時間より、
ランチタイムとティータイムのお喋りの方がずっと長かったですね。

あなたが初めて身籠もった時の
輝く笑顔は今も鮮やかです。
Shoutarou君は、もう十八歳の立派な青年。
「今度は女の子よ」と満面の笑みで抱いていた
Harukaちゃんは、すらりと美しい十五歳の少女。
お二人の表情の中にAkikoさん
あなたがいます。

私の結婚披露宴の司会をしてくださったあなた。
あなたの結婚披露宴の司会をつとめた私。
今日、私はあなたへお別れのことばを読むけれど
あなたは私に別れのことばを読んではくださらない。

でも、Akikoさん

五十年の人生を短いと嘆くのは止しましょう。

あなたの充実した幸福な生涯を私は称えます。
Takuoさんの深い愛情に支えられ包まれ
この世に二人の命を送り出し愛しみ
たくさんの若者たちの行く手を照らし
人々の信頼と絆を結び続けた
あなたは素晴らしい。
あなたと出会えた私は幸せ者です。

Akikoさん
あなたがいつもあなたのご家族と
あなたに繋がる全ての人たちを
見ていてくださると信じています。

Akikoさん
Shoutarou君、Harukaちゃん、そしてTakuoさんを
あなたは守ってくださいますね。

Akikoさん
どうぞ安らかに。

2002年12月8日


Keiko


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