二十歳の人々

 

奢りの春と歌われた

二十歳の子らに囲まれて

話し続ける女が一人

つややかな黒髪の

肩に流れる乙女らの

形良き姿に見とれて

ふと黙る女が一人

 

この子らの胸の内にたぎる

憧れは何処かの若者を

我がものとすること

未来の扉を共に開くこと

二十歳の子らの華やぎの中に

過ぎた日の面影を探して

遠い目をする女が一人

座って年上の女を眺めていたことを

苦く痛く思い出す

あんな風にはなるまいと

二十歳の誇りはうそぶいていた

語るほどに問うほどに

二十歳の子らは遠ざかる

つまづきだらけの思い出と

はるかな旅の記憶だけが

女に出来る話の全て

 

二十歳の子らは信じない

蹉跌がこの世にあるとは

年上の女の物語は

その場限りの芝居にも似て

二十歳の子らのため息と

笑いとざわめきに砕け散る

あななたちはどう生きるかなどと

聞かれて答えが出る訳もなし

女はたじたじと引き下がる

やわ肌の熱き血潮に触れもせよ

道説く君がいるはずもなし

物知り顔の子らに向かって

ただささやかに願うのは

二十歳の志を棄てるなと

健やかであれとのみ

 

ときにはたかが二十歳の子らに

宿敵を見て女はうろたえる

ポケベルから携帯そしてパソコン

髪かき上げ小首傾げて話し続ける

恐れ知らないことば使いたち

若い光の届かぬ陰に

そっと送ることばもあろうと

思えども甲斐無くて

駆け抜けてきた時空を仰ぐ

与えるものがあるのだろうか

二十歳の子らにみなぎる力は

原石のまま眠りから覚める

磨き手はここにはいない

 

女はまた一人でことばを紡ぐ

夜更けにつづるタピストリー

モニター画面は女の鏡

覗き込んで見つめながら

語ることばを探し続ける

さあお行き二十歳の子らよ

匂い立つ美しさの人々の

消えた後に残った女は

踏みしだかれたことばを拾い集める

 


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