New Zealand紀行
「光を観に行く」
初出 田崎清忠催
Writers Studios
2018年 4-5月

写真ページ
Traveling in
New Zealand

New Zealand紀行

「光を観に行く」

1 海外旅行に行く理由 (1) (2)
2 降っても照っても (1) (2)
3 氷河と銀嶺 (1) (2)
4 カーヴする鉄路 (1) (2)
5 よみがえる街角 (1) (2)
6 海へゆくもの (1) (2)

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6 海へゆくもの

K. Kitada

(2)

 磨き込まれた木製の小舟も美しく、天井から吊るされて船底の構造まで観察できる巨大なヨットの勇壮さも圧巻だったが、私が最も関心を引かれたのはNZへの移住を鼓舞するイギリス製のポスターだった。“New Zealand / the Land of Golden Opportunities for Ambitious Men and Women!”(ニュージーランド/ 野望に燃えた男と女に黄金の好機を提供する国)という惹句の下に、「36歳以下の独身の男女、航海の費用不要・仕事口・宿泊施設確約」「労働者階級の移民歓迎 / 庭師・店員・農民・一般労働者・技術者 / 実直・勤勉であること/ 要・教区牧師の証明」「ニュージーランドは良家の召使を募集中/ 高給」等々の文字が躍る。船室の模型には蚕棚の様なベッドが並び、古びたトランクが積み上げられている。人々が「新世界」を目指した様子がリアルに迫ってくる。20世紀になってもNZは第二次世界大戦後の人手不足から1960年代まで移民を奨励していた。(もっとも14世紀以来流入した人間の持ち込んだ動植物が在来種の多くを絶滅させたことは繰り返すまでもない。)NZが海を恐れぬ人々の創り上げた国であることはよく分かった。

 そしていよいよ私たちが観光探索船で乗り出したのはthe Hauraki Gulf Marine Parkと呼ばれる水域だった。世界中の海洋生物の1/3が出没するという海原へと船は高速で進んで行く。Aucklandの陸地が見えなくなり、いくつかの島を後に、見晴らす限り海面は穏やかに広がっていた。(酔い止めの薬など不要!)途中で乗務員が海水検査のために容器を海中に下ろしたものを乗客に見せたり、船長が低く旋回する海鳥の動きをアナウンスしたりしつつ、誰もがイルカやクジラの出現を今か今かと待ち構えていた。説明では95%の確率で私たちは海獣に出会えるはずだった。ところが、観察できたのはトビウオが一匹だけ。(どうやら鯨はイースター休暇中だったらしい。)どこまで行っても海は静かに青かった。

3時間以上波しぶきを浴びながらデッキの船首に近い位置に立ち尽くしていた私もあきらめざるを得なかった。自然が人間の期待通りに振る舞う訳がない。鯨見物は不発だったものの、海へ出てゆく経験は鮮烈だった。海面のきらめき、波間に出現する虹、白く泡立つ航跡、どれもが光を観に行った私たちへの至高の贈り物だった。

 

旅は終わった。生き生きと語られる異郷の言葉を聞き、土地の人々に導かれて未知の領域へ踏み出す毎日は驚きと喜びにあふれたものだった。10日余の滞在で見聞できたことはほんの僅かだが、「NZにまた行きたい」というのが偽らざる心境だ。いつか再びNZへ、光を求めて旅立とう。Kapai. Ka kite ano. (Maori語で“Thank you. See you again.”)(了)

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