New Zealand紀行
「光を観に行く」
初出 田崎清忠主催
Writers Studios
2018年 4-5月

写真ページ / Photos
Traveling in
New Zealand

New Zealand紀行

「光を観に行く」

1 海外旅行に行く理由 (1) (2)
2 降っても照っても (1) (2)
3 氷河と銀嶺 (1) (2)
4 カーヴする鉄路 (1) (2)
5 よみがえる街角 (1) (2)
6 海へゆくもの (1) (2)

Home ホーム
更新・短信
The Latest Notes
新作エッセイ
Essays since 2018

New Zealand紀行 「光を観に行く」

1 海外旅行に行く理由

K. Kitada

(2)

娘が選んだエージェントは日本人経営の会社* だった。創業以来十数年の実績があるとかで、旅行者が「行きたい所」「やってみたいこと」などの大まかなプランを事前にメールで送ると、エージェントから「実行可能な組み合わせ」や日程が提案される。それに対して旅行者はさらに細かい注文を出し、質問を重ねて独自のプランを作り上げていく仕組みだ。例えば私の希望は「なるべく英語のガイドをお願いしたい」というものだった。(せっかくNZまで行くのだから英語のシャワーが浴びたい。)それに対して「極力努力いたしますが、参加人数の関係でご希望に添えない場合はご容赦ください」という返答が来た。実際Queenstown空港から最初のホテルまで車で送ってくれたのは千葉で英語を13年間教えていたというNZ人男性。もうひと組の日本人観光客も同乗していたので、彼は運転中ずっと諧謔味のこもる巧みな日本語で街の中心部の案内をし続けた。件の旅行会社の契約ドライバーなのだろう。きめ細やかなガイドぶりだった。その後ホテルで待ち構えていて私たちにバスや飛行機、ホテル、アクティビティーへの参加予約などのバウチャーを手渡し「NZ旅行の心得」を指南してくれたのはNZ人と結婚して地元に暮らす日本人女性(私と同年輩と見た)だった。予定時間に遅刻しないことを固く約束させられた。「少しでも遅れたら、バスでもバンでもさっさとおいていきますから」と。その後もバイリンガルの日本人ガイドや多言語を操る現地ガイドなど様々な人が登場し、「英語圏に来たのだから日本語は御免こうむる」などという希望はNZでは場違いなのかもしれないと私は思うようになった。多種多様な人々の共存するNZでは、日本語もそのバラエティー(diversityと言い換えても良いかも知れない)の一つであり旅行者だからといって避ける必要はない?というのが新たに芽生えた意識である。

海外に出るのは日常を離れ母国語の世界を後にし、外国語(英語)のスキルを磨くためというのが私のこれまでの姿勢だった。海外での経験をひとつでも多く持ち帰り、教室で授業に生かしたいという大真面目かつ不純な動機が私の旅を「野心と道連れ」のようなものにしていたと思う。ところがこのような意識は私の視野や行動半径を狭めていたかもしれない。もっとおおらかに、行った先の国や出会う人々とのさりげない関わりを享受できたら良いではないかと、今回ようやく肩の力が抜けてきた。

かくて、エージェントに依頼しガイドに助けられて巡ったNZで、私たちは「観光立国」の実際や「海洋国」「畜産業」「希少動植物」「先住民族と移住者」「ワークライフバランス」「女性活躍社会」などいくつもの(概念としては知っていたつもりだけれどもその内実は想像するしかなかった)NZ事情について見聞きし、直接触れる契機を得た。300年前にできた氷の欠片を口に含んでみた氷河湖でのゴム製ジェットボートクルーズ、シダが生い茂り倒木に苔むすブナ林でのトレッキング、闇の中で保護され飼育されているNZ固有種のkiwiという飛べない鳥の観察、地中に埋めて蒸して作るマウリ族のハンギ料理、フィヨルド渓谷をめぐる大人気のクルーズなど定番の観光地も含めて”Seeing is believing.”とも言うべき体験をした。

「観光旅行」とは「光を観に行くこと」であろうか。確かに自然も人間も含めて、NZへ私たちは光を観に行ってきた。思いがけない光に照らされて浮かび上がるのは、実は己の姿であることも多い。数回にわたってその体験の幾ばくかを書いてみたいと思う。

 

【註】日本人経営の会社*ブログに投稿した旅行感想レポート(写真付き)はこちら⇒To New Zealand, A Brief Report

前のページ

次のページ

写真ページ / Photos
Traveling in
New Zealand

1 海外旅行に行く理由 (1) (2)
2 降っても照っても (1) (2)
3 氷河と銀嶺 (1) (2)
4 カーヴする鉄路 (1) (2)
5 よみがえる街角 (1) (2)
6 海へゆくもの (1) (2)

Home ホーム
更新・短信
The Latest Notes
新作エッセイ
Essays since 2018