New Zealand紀行
「光を観に行く」
初出 田崎清忠主催
Writers Studios
2018年 4-5月

写真ページ / Photos
Traveling in
New Zealand

New Zealand紀行

「光を観に行く」

1 海外旅行に行く理由 (1) (2)
2 降っても照っても (1) (2)
3 氷河と銀嶺 (1) (2)
4 カーヴする鉄路 (1) (2)
5 よみがえる街角 (1) (2)
6 海へゆくもの (1) (2)

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New Zealand紀行 「光を観に行く」

1 海外旅行に行く理由

K. Kitada

(1) 

長い冬の後、本当に久しぶりに飛行機に乗って旅に出た。職場を定年退職した日に、スーツから旅装に着替えて空港へ直行。空港がどんなところだったかうろ覚えであるばかりでなく、今日ではe-ticketというネット決済の航空券をプリントアウトしたものを機械に読み取らせて搭乗手続きをするなんて知らなかった。モグラが恐る恐る土の中から顔を出すように、何もかも眩しい。

 到着したNew Zealand(以下NZと省略)のAucklandで国内線に乗り換えて南島のQueenstownへ向かう。東京は春の始まりだったけれど、こちらは秋の始まり。北半球から南半球へ移動したことを実感する。往復の機内泊2日を加えて12日間の旅行である。Peter Jackson監督の“The Lord of the Rings”シリーズと“The Hobbit”を観て、映画のロケ地NZの虜になった娘が4年前に(ロケ地の)「聖地巡礼」一人旅を敢行し、私にもNZを見せたいと言い続けていた。私自身は巡礼者になどなるつもりはないが、見たことのない風景の中に身を置いてみたいという気持ちは十分にあった。この度はNZの大自然を味わう旅にしようと話がまとまり、有給休暇を貯めた娘と退職したての母の二人旅となった。

長年英語教員を勤めてきた私の関心のひとつはNZでどのような言葉に接することができるか、だった。全身で聴こえてくる音に耳を澄ます。まずもってAir NZ機内アナウンスの挨拶がお決まりの“Hello, welcome on board!”だけではなく、”Kia Ora”(こんにちは)とマオリ語が加わる。どこへ行ってもそうだった。私たちがAucklandに降り立った日はちょうどパラリンピックのメダリスト帰還の日で、車椅子に乗った選手が税関の扉を開けた途端、人垣が歓声で出迎え直ぐにハカダンスが始まった。(ラグビーの試合前にNZチームが相手を威嚇するように吠え叫び腰を落として踊る、あのダンス!)Maori族の戦と歓迎の踊りだが、蛮声にも近い勇壮な歌と踊りに接して私は予想以上の興奮を覚えた。それはおぼろげにEngland, Scotland, Wales, Irelandなどからの移民が作り上げたように思っていたこの土地には先住民族がいて、近年ことさらに彼らに敬意が払われている(それまでは逆さまの待遇だったであろう)ことを徐々に学ぶきっかけとなった。

私はこれまで数カ国に旅行したことや滞在した経験はあるものの、本格的「観光旅行」に出るのは今回が初めてだった。旅程を立てる際、娘が主張したのは「人間の数より羊(近年は牛)の数の方が多いNZであちこちを手際良く回るには、個人旅行専門のエージェントを利用しない手はない。空港や各地での送迎ピックアップ、野外活動のガイド、ホテルの手配などを地元のマンパワーに依頼しよう」というものだった。団体旅行のようになったら面白くなさそうと最初は及び腰だった私も、地図を広げて旅の拠点となる場所を眺めるうち、「郷にいては郷に従え」や「老いては子に従え」を実践しようかという気になっていた。

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