Mails from Virginia

No. 2 (日本語版)

September 9, 1997

東洋女子短期大学の皆様

ご無沙汰いたしました。お元気ですか。いつのまにか夏が過ぎて、早くも秋の気配が深まってきました。「お便りします」と言い出しておきながらの筆無精、お許し下さい。良い休暇を過ごされたでしょうか。またe-mailでお便りを何人もの方からいただき感謝しています。中には何度も英文のお便りを下さった方もいらして、感激でした。どうもありがとうございます。

ここバージニア州、シャーロッツビルの夏は「猛烈に蒸し暑い」という前宣伝ほどのこともなく、今年は誰もが「いつになくマイルドな気候だった」ということで意見が一致しているようです。かつてアラバマ州、バーミンガムで筆舌に尽くし難い熱暑を経験したことがあるので「如何ほどの暑さか」と身構えていた割には深南部とはまた異なる風土の土地柄、むしろ東京から来た者には緯度が高い分だけ過ごしやすかったように思います。東京からの便りにはどれも異口同音に天候不順の事が書いてありましたから、皆様に今頃夏の疲れが出ていないことをお祈りいたします。

さて、前回は車のことでてこずっている話を長々と書いたものですが(その間の経緯については私のホームページの"Virginia Discovery Journey"に詳しく書きましたので、お暇な折に覗いてみて下さい)、その後無事バージニアライセンスを取得して以降、今度は「車無しの生活は考えられない」状態になり、手に入れた中古車がフル回転しています。夏休みには家族で歴史の街Williamsburgとその近くのテーマパーク"Busch Gardens"、Charlottesville近郊の国立公園Shenandoah National Park(ここのBlueridge Mouintain Skyline Drivewayというのがまさに絶景)、そして首都Washington D.C.へ小旅行に出かけました。

またこちらのサマーセッションが7月いっぱい続き、久し振りで教室に座って勉強しました。それは "Central Virginia Writing Project"というUVAで毎年開かれているコースで、地元バージニア州の小学校・中学校・高校などの現役の英語の教員達が教授法や教材、教育一般について知見を分かち合い、切磋琢磨するためのものです。老若男女、様々な個性に囲まれて飛び交う言葉の洪水に溺れないようするのも楽ではありませんでした。その時に書いたものを中心にホームページを作成してみました。ご覧いただいて、感想などお聞かせ願えたら嬉しいです。

半年間はあっという間でした。未知の土地での生活に慣れることは、驚いたりあきれたり、怒りを感じたり感心もしたりと一様ではありませんでしたが、夢中で過ごすうちまたたく間に帰国の日が迫ってきました。けれども同時にいろいろな事のあった半年でもありました。痛ましい神戸の小学生殺害事件については義母がせっせと送ってくれた日本の新聞切り抜きから、数週間遅れで大筋を追い胸を痛めていました。東洋女子短期大学の前学長、木内信敬先生ご夫妻のご逝去はいずれもその日のうちにe-mailでお知らせをいただき、ご冥福をお祈りいたしております。そしてこの夏の終りには世界中の耳目を集める大きな存在の他界が相次ぎました---Princess Diana とMother Theresa。皆様も様々な感慨ををお持ちのことと思います。アメリカでは、世界各地の人々の反応を始め、亡くなった女性二人をめぐる多種多様な報道が連日マスコミで取り上げられています。普段は世界の動向に必ずしも鋭い反応を示す訳でもないアメリカ人にとってさえ、このたびのニュースは特別の扱いです。やはり歴史的にも宗教的にも繋がりの深い国・伝統のなせる業かと私も興味深く新聞記事を読み続けているところです。

既に帰国便の手配、荷物の梱包などを始める一方で、残りの滞在期間に予定しているいくつかの事を滞り無くやり終えられるよう、準備しているところでもあります。娘の通う小学校で毎年行われている(算数の授業を利用した)「折り紙教室」のお手伝い、UVA のCurry School of Educationでの"Technology in Education"というセミナーへの参加(日本の状況を話すことになっています)等。

アメリカ滞在は今度で4度目ですが、この度ほど日本のことを様々な角度から見つめ直す機会が得られたことはありませんでした。一つにはUVAが主催する高校生のためのサマーセッション"Young Writer's Workshop"で日本の詩歌について話をするよう求められ、俳句のことを取り上げようとインターネットを利用して資料を集めながら、日本語の表現の陰影や含蓄、余韻というものを改めて味わったことがあります。

また、Charlottesvilleの街の映画館で公開された英語字幕付きの「Shall We ダンス?」を見に行ったところ、アメリカ人の観客が大笑いしながら楽しんでいる様子を目のあたりにし、更に何人かの人達から「あれは本当のことなの?日本人としてどう思う?」などと質問され、あんなに笑いをとりながら日本人の実情をかくも率直に表現した映画が他にどれほどあるだろうか、映画以外のメディアは現代の日本をどう表現してきたろうか、と考えさせられました。子供達の間ではたまごっちとその類似品が爆発的な人気を呼び、夏休みの間は小学生があっちでもこっちでもピッピ、ピッピと電子ペットを育てている姿を見かけました。(「Bostonでは大学生も買ってましたよ」と教えてくれた人もいますし、パソコン雑誌に育てた体験を書いているコラムも載っていました。総じて「不思議に惹き付けられる」という感想が多いようです。)。

しかし何といってもWashington D.C. のSmithonian Museumのひとつ、「航空宇宙博物館」で原爆投下に出撃した戦闘機"Enola Gay"がその業績を賛えられる目的で展示されているのを見たのは衝撃でした。アメリカの戦争論理でいくと原爆投下は、より大きな犠牲を食い止め日本の早期降伏を促すための英断、ということになります。そこまで自国民を戦争に駆り立てた日本に責任があるという論理です。被爆者のことには全く触れていません。その一方でベトナム戦争犠牲者の記念碑の前では多くの訪問者がひきも切らず哀悼の念を捧げていました。オープンで陽気なアメリカ人という型にはまった見方ではとても語り尽くせないこの国の素顔をかいま見る思いでWashington D.C.を後にしました。

日本に帰ると今度はアメリカがどんな風に見えるか、自分の生まれ育った国の文化や習慣をどのように感じるか、興味深くもあり不安でもあります。そもそも何故英語や英米文学・文化に自分はこれまで惹かれ続けてきたのか、大きなQuestion Mark (???)を持ち帰ることになりそうです。東洋女子短期大学のキャンパスでお会いして、またいろいろなことを皆様と語り合えるのがとても楽しみです。十月始めに戻ります。その節は、何卒よろしくお願いいたします。皆様どうぞお元気で。

best wishes from Keiko

写真は上から順番に「Williamsburgへ向かう高速道路」、「Blueridge Mountain Skyline Parkway」、「Washingon Mounment」、「 Vietnam戦争戦没者慰霊碑」です。


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